ressentiment、足りてる?

釣りと廃墟とネコ(ホラー映画もたまに)

【実話怪談】襖の向こう側で響く跫

加奈子が高校生の時に経験した話。

その夜、加奈子は先輩の原田と原田の家で心霊DVDを観る約束をしていた。原田は実家暮らしで1LDKの家に母、夜勤で夜は不在の父と弟と4人で暮らしていた。弟は自室で眠り、母親も自室で眠っていた深夜1時頃、加奈子と原田はリビングでDVDを観ていた。襖の向こう側から時々響く音に気付きながら。

 

その跫は襖の向こう側にある台所の床を踏む音だった。加奈子も原田も口にこそ出さないが大方、弟か母親がトイレや水を飲みに部屋から出て来た音だろうと思っていた。

 

 

ぎし。ぎし。ぎし。

床が軋む音に合わせて襖が少しだけかさかさと鳴る。テレビは黒髪の妙な顔つきの女や窓からのぞき込む男の顔を流し続ける。ふと視線を外して窓を見るとカーテンは揺れて、その向こう側には真っ黒い夜が広がっていた。

 

 

2枚目のDVDが終わったとき、休憩がてらに近所に散歩をしようと原田が言い出した。

 「火葬場跡地のマンションとか墓地がある。どうせなら肝試しも兼ねてさ」

 

 

魅力的な提案にさっそく原付に乗って原田の後ろを加奈子が走る。秋が終わるころの夜風につんと手足や耳が冷える。車も通行人も通らない夜の道は気分が良かった。

 

 

バイクを止めてヘルメットを取る。エンジンが止まると辺りの静寂が一斉に顔を出して、何やら恐ろしいものが近くにいるような気がしてくる。しんと静まり返った道路の向こう側に墓地がある、暗闇でよく見えないながらに加奈子は確信していた。

 

 

墓地を背にして原田が指を指して言った。

「あのマンションが建つ前は火葬場だったんだよ」

「そうなんだ。やっぱり怪奇現象とかあるのかな」

「変な噂はあるらしいけどね」

暗闇のなかに聳えるマンションは各階に灯りがついていて、そこだけ別世界のようだったと加奈子は言う。それから妙に気持ちが冷めてしまって何とも言えない気持ちで家に戻ったそうだ。午前3時半を回ったころだった。

 

 

原田の自宅に戻ってからも加奈子は何をする気にもならなかったが止めていたDVDを再生して、ただぼうっと二人は画面を眺めていたと言う。そうしてしばらくテレビを眺めていると床が軋む音が聞えてきた。

 

 

ぎし。ぎし。ぎし。

また誰かが起きてきたんだな、そう思って原田の顔を見ると彼の顔は嫌に強張っていた。

 

 

「どうしたの?」

「いま、扉が開く音ってした?」

「・・してないよ」

弟の部屋も両親の部屋もドアの開閉には金属の音がするのに今日はドアの動いた音がしていないのに跫がする。原田は早口でそう言った。

 

 

ぎし。ぎし。ぎし。

跫に連動するように襖が少し揺れる。二人とも視線を襖から外せなかった。きっと弟か原田のお母さんが襖の向こう側にいて、お水を飲んだり、何かしらしているんだろう。電気もつけずに。自分のおうちの勝手は住んでる人からすれば簡単なものだし、きっとそうだと加奈子は考える。揺れる襖ががたがたと鳴き始める。もう跫はしない。

 

 

原田と視線を合わせると彼は思い切ったように襖を開け放った。台所には誰もおらず、暗闇のなかで鍋や食器がリビングからの灯りで光って浮いているように見えた。原田はそのまま台所を過ぎて廊下を進み弟の部屋のドアを開ける。ぎぃと鈍い音が鳴る。両親の部屋のドアを閉める、がちゃんと鳴る。

 

 

リビングに帰ってきた原田は襖をきっちり閉めなおして部屋に入るなり言った。

「こんな事が起きたのは初めてだ」

 

 

それから日が昇るまで二人は襖の向こう側から何度も跫を聞いた。襖も揺れた。揺れた拍子に隙間を開けた襖からキッチンの暗闇を覗いた。そのたびに原田が立ち上がり襖を閉めなおした。

 

 

それから何度か原田の家に遊びに行ったけどあんな事があったのはあの夜だけだったよ、と加奈子は言う。墓地はどんな雰囲気だったの?と聞いてみると、お墓を見た訳じゃないんだけど線香の匂いがしたのだと彼女は話してくれた。

 

 あの晩、和室の向こう側にいたのは誰だったのだろう。そして深夜の墓地で線香を炊いていたのは誰だったのだろう。疑問ばかりが残る話だった。

 

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